No.9_大腸癌に対するリポ多糖(LPS)とジンセノサイドRg3(Rg3)(Lipo-LPS-Rg3)の薬理作用
No9_大腸癌に対するリポ多糖(LPS)と
ジンセノサイドRg3(Lipo-LPS-Rg3)の薬理作用
北里大学 客員教授 山口芳正
がん細胞はアンテナをもっており、それが体を病原体や異常細胞から守るT細胞のアンテナと結合して、「自分を攻撃するな」という命令を送っています。すると、T細胞にブレーキがかかり、がん細胞は排除されなくなります。このように、がん細胞が免疫の攻撃から逃れるため、T細胞ががん細胞を攻撃できなくする仕組みを「免疫チェックポイント」といいます。
大腸がんは世界的ながん死亡の主要な原因であり、腫瘍の内部にあるDNAを修復するシステムが正常な大腸がんに対しては、免疫療法が明確な有効性を示すことができません。DNA修復システムが正常な大腸がんは、免疫原性が低く、programmed cell death 1 ligand 1(PD-L1)などの免疫チェックポイントの発現が持続していることが特徴です。したがって、免疫チェックポイントを阻害する薬剤は、がん細胞に対する免疫を活性化・持続させることができる有効な治療薬となります。
一方、ジンセノサイドRg3は、免疫チェックポイントタンパク質の働きを抑制する有望な免疫調節剤として注目されています。しかし、水溶性が低く体内で吸収されにくいため、腫瘍内に効果的に到達することが難しいことが問題となっています。また、炎症反応に伴って細胞死や細胞を溶解するパイロトーシスは、免疫学的に不活性な腫瘍を活発な状態に変換する強力な戦略として注目されています。リポ多糖(LPS)は、典型的なパイロトーシス誘導物質であり、免疫系を活性化する可能性がありますが、生命にかかわる炎症性毒性を持つことから全身投与をすることはできないという問題があります。そこで、Rg3の溶解性の低さとリポ多糖(LPS)の全身毒性を克服し、両者を同時に送達して相乗的に作用できるようにするため、著者らはナノリポソームであるLipo-LPS-Rg3を開発しました。
【Lipo-LPS-Rg3の薬理作用】
①マウスCT26結腸癌細胞に対する作用:T細胞の攻撃を抑制する免疫チェックポイント分子であるPD-L1の発現が高い代表的なモデルであるマウスCT26結腸癌細胞におけるRg3のPD-L1調節に対する影響を調べました。その結果、Rg3とリポソームRg3(Lipo-Rg3)の両方が、タンパク質レベルおよびmRNAレベルでPD-L1を有意に抑制し、ナノカプセル化してもRg3の活性が損なわれないことが確認されました。
さらに、そのメカニズムを調べたところ、Rg3はPD-L1の活性を調節する遺伝子の発現を活性化または抑制するタンパク質である転写因子の働きを阻害していました。次に、LPSが、自然免疫系の主要な防御機構であるパイロトーシスを介して免疫応答を引き起こすかどうかを評価しました。パイロトーシスによって細胞死によって細胞膜が破裂すると、細胞内の乳酸脱水素酵素(LDH)の放出が観察されます。Lipo-LPSは、LDHの放出を誘発したことからパイロトーシスが誘導されたと考えられます。
これらの結果から、Lipo-LPS-Rg3は、Rg3がPD-L1関連の免疫抑制シグナル伝達を抑えると同時に、LPSがパイロトーシスを介して腫瘍細胞を免疫系で破壊しやすい細胞へと変換するという二重の調節因子として機能していると考えられます。
この協調的な作用は、免疫学的に不活性な腫瘍を、チェックポイント阻害療法や免疫療法に適した状態へと変化させていると考えられます。
②CT26移植マウスに対する作用:従来の免疫療法に抵抗性を示す典型的な大腸癌であるCT26をマウスの皮下に移植したモデルで治療効果を評価しました。Lipo-LPSまたはLipo-Rg3による単剤療法では腫瘍の増殖がわずかに遅延したのみでしたが、Lipo-LPS-Rg3のみが顕著な抗腫瘍効果を示し、数匹のマウスでは腫瘍がほぼ完全に退縮しました。
また、有意な体重減少は観察されず、良好な安全性プロファイルを示しました。
【まとめ】
免疫原性が低いため免疫系による攻撃を受けにくい腫瘍を、免疫原性が高くして、免疫系による攻撃を受けやすい腫瘍に変換することができるLipo-LPS-Rg3は、DNA修復システムが正常な大腸がんの免疫療法において有望であると考えられます。
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紹介論文:Front Immunol. 2026 Jul 14;17:1831497.
Reprogramming the immunosuppressive microenvironment in MSS/pMMR colorectal cancer via synergistic pyroptosis induction and PD-L1 suppression.
相乗的なパイロトーシス誘導とPD-L1抑制によるMSS/pMMR大腸癌における免疫抑制性微小環境の再プログラミング
Mo J et al.
