【はじめに:高麗人参と私】
高麗人参は、古くから生薬として人の健康を維持したり増進させたりするために使われてきました。高麗人参という名前だけで、何となく元気になりそうだとか、凄い効果がありそうだというイメージを持っている人が多いと思いますが、実際には人の健康にとって有益な効果を持つことが論文として数多く報告されており、イメージだけでなく確かな効果を持つことが知られています。
私は以前、製薬会社の研究所で認知症薬の研究をしていたという経歴を持っています。その中で、高麗人参に含まれている有効成分であるジンセノサイドの記憶に対する効果についての研究を行っており、その研究で博士の学位を取得させていただきました。ここで、私が行っていた研究について紹介したいと思います。
【認知機能への作用を視点に】
高麗人参には、複数種類のジンセノサイドが含まれており、その化学構造の違いによって、異なる薬理作用を持っています。高麗人参には、代謝疾患や循環器疾患に対する効果が広く知られていましたが、私は認知機能に対する作用に焦点を当てて研究を行いました。
認知機能の研究に用いたのは放射状迷路装置というもので、ラットの空間記憶を検討するために Olton & Samuelson (1976) によって開発された装置で、8本のアームの先端におかれた餌を,既進 入アームへ再進入することなく、全アームをめぐって摂取することが最適方略となる課題です。餌を食べるということを動機づけとしているため、抗不安作用など記憶以外の因子に成績が左右されにくいと考えられており、より記憶機能を評価しやすい課題とされています。
【改善効果がみられた!】
実験では、ラットに神経伝達物質であるアセチルコリンの働きを止める薬剤を投与することによって記憶障害の状態にしておき、それをジンセノサイドが改善できるかどうかについて調べました。8種類の構造の異なるジンセノサイドを用いたところ、ジンセノサイドRg1とReという構造が類似した2種類が記憶障害を改善しましたが、他の6種類にはそのような作用はありませんでした。そこで、脳内のアセチルコリン合成酵素の活性を測定したところ、この2種類のみが酵素活性を高める効果を持つことがわかりました。また、老齢(21カ月齢)になったラットでも、脳内のアセチルコリン合成酵素の活性が低下し、記憶障害が起きていますが、これらに対してもジンセノサイドRg1は改善効果を示しました。
【ジンセノサイドへの期待】
高麗人参には異なる薬理作用を持つ複数のジンセノサイドが含まれており、それらが複合的に作用して、人に対して様々な作用を示していると考えられます。今後、このコラムでは、このような高麗人参や、その有効成分であるジンセノサイドの薬理効果を、科学的なエビデンスをもとに紹介していきたいと思います。
北里大学 客員教授 山口芳正
