No.8_黒参エキスおよびRg3による抗がん剤の心毒性を軽減する効果
北里大学 客員教授 山口芳正
抗がん剤として広く使用されているドキソルビシンは、がん細胞のDNAに入り込み、その成長を止め、死滅させる作用を持つ薬ですが、酸化ストレスやミトコンドリア機能障害だけでなく、細胞死を伴う心毒性を持つことから、その使用が制限されています。
黒参はジンセノサイドRg3などの希少サポニンを紅参や白参よりも多く含有しており、心臓保護作用を持つことが知られています。したがって、黒参エキスまたはRg3は、ドキソルビジンの心毒性を軽減できる可能性があります。
本研究では、ドキソルビジンで誘発した心毒性に対する黒参エキスとRg3の保護効果について調べました。
【黒参エキスとRg3の薬理作用】
①ラット横紋筋培養細胞に対する作用:ラット心臓の横紋筋に由来した培養細胞を用いて、ドキソルビジンによる細胞毒性に対する効果について調べました。
その結果、ドキソルビジンで処理することによって培養細胞の細胞障害が誘発され、生存率は著しく低くなりましたが、黒参エキスまたはRg3を加えることによって、ドキソルビジンの毒性が抑えられ、生存率が高くなることが示されました。
②マウスの心臓に対する作用:雄C57BL/6マウスに3日ごとに2.5 mg/kgのドキソルビジンを合計5回腹腔内投与すると、体重減少、呼吸数の増加、活動性の低下、毛艶の悪さ、嗜眠、および反応の遅延が認められました。また心臓の組織学的検査では、炎症細胞による組織浸潤が示されました。さらに、心筋の損傷の程度を判断することができる指標であるクレアチニンキナーゼ・MB(CK-MB)のレベルも上昇していました。
心エコー検査では、心臓の左心室が1回の拍動でどれくらい血液を送り出せているかを表す数値であるLVEFおよび左心室の収縮能を示すLVFSの低下が示され、心臓の機能が低下していることが示されました。それに対して、黒参エキスまたはRg3を投与することによって、マウス心臓機能が著しく改善し、心筋の損傷が軽減されることが明らかになりました。
特にRg3の効果は顕著でした。また、黒参エキスとRg3は、スーパーオキシドジスムターゼやマロンジアルデヒドなどの酸化ストレスマーカーを効果的に減少させ、炎症を軽減しました。
さらに、アポトーシス(細胞死の一形態)を抑制し、心筋細胞の形態を回復させ、ATP活性を高めていたことから、ミトコンドリア機能を強化する作用を持つと考えられます。
【まとめ】
黒参エキスおよびRg3は、酸化ストレス、炎症、およびアポトーシス(細胞死の一形態)を軽減し、ミトコンドリア機能を維持することにより、ドキソルビジンで誘発した心毒性に対する顕著な心臓保護効果を示しました。
これらの知見から、黒参エキスやRg3は、ドキソルビジンの心毒性を軽減して、使用できる患者を増やすことができる薬剤として有望であると考えられます。
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紹介論文:Food Sci Nutr. 2026 Jun 8;14(6):e71968.
Exploring the Mechanisms of Total Saponins of Black Ginseng and Ginsenoside Rg3 Against Doxorubicin-Induced Cardiotoxicity
黒参の総サポニンおよびジンセノサイドRg3のドキソルビシン誘発性心毒性に対する作用機序の解明
Linlin Liu et al.
